

株式会社ダイレクトメッセンジャー 代表取締役 / ゴミ拾い侍中河原智也
「清」の志に迫る。
あなたにとって「志」とはなんですか?
私にとって「志」とは、未来そのものを指します。
ただし、それは5年後や10年後といった目先の未来ではありません。
100年後、200年後といった長い時間の先を見据え、そこをどう変えていくのか、
その視点こそが、私にとっての「志」です。
Q1 志を漢字一字で表してください
私にとって志を表す一字は「清」です。
それは、私が取り組んでいる事業、「ゴミ拾い侍」を象徴する言葉でもあります。
ゴミ拾い侍は18年前、原宿の「歩行者天国」に端を発して誕生しました。
かつて賑わったストリートパフォーマンスは、騒音や大量のゴミ問題で廃止に。その経験から「今度はゴミを拾いながらパフォーマンスをしよう」との発想で活動が始まり、当初は劇団員が稽古の一環として参加していました。私は10年前にこの活動と出会い、「事業としても成り立つ」と確信。アーティスト経験を生かし、2021年から正式にプロデュースし、起業へと発展させました。
私たち「ゴミ拾い侍」は、ただゴミを拾うだけではなく、パフォーマンスを融合させたチームです。
その活動の根幹にあるのが「清める」という行為です。
「清める」には三つの意味があります。
一つは街を清めること。
二つ目は心を清めること。
そして三つ目は未来を清めること。
街はきれいにしても、翌日にはまた汚れてしまうことがあります。しかし、それでも拾い続けることに意味がある。
拾うという行為は、街を整えるだけでなく、自分自身の心をも清めることにつながるのです。
この「清」という志に色をつけるならば、緑です。自然を象徴する色であり、濃い緑や淡い緑、季節や時の流れによって姿を変える多様な緑。その変化の中に、人それぞれの見方や解釈が存在します。
もし、この志に触れることができるとしたら、その温度は「熱い」と思います。私たちの活動は、ただ静かに淡々と続けるものではなく、内に強い情熱を秘めたものです。普段は冷静であっても、関わるうちに自然と熱を帯び、気づけば心の炎が燃え上がる。そんな力を持っていると感じています。
そして、この志を手に取れるとしたら、その重さは意外と軽いものだと思います。重苦しい理念ではなく、誰もがシンプルに始められる行為の延長にあるものだからです。軽やかであるからこそ、広がりやすく、人々の心に浸透していく。
私は、街や心を清める小さな積み重ねが、やがて100年後、200年後の未来をも清めていくと信じています。
その未来を見据えて動かしていく原動力を込めて、私は「清」という字を志の一字として掲げます。
Q2 事業内容
①WHAT
②WHY
③HOW
① WHAT
会社が存在している意義 / 何を解決するための誰のための事業なのか
私たちの目的は「80億人ゴミ拾い侍計画」です。
世界中の人が「ゴミ拾い侍の心」を持ち、行動することを目指しています。
日本は清潔な国といわれますが、海外には深刻なポイ捨て問題を抱える地域が数多く存在します。
だからこそ、ゴミ拾い侍の精神を世界に広げたいのです。
ゴミのない街は犯罪率の低下にもつながり、環境が整えば社会も平和に近づく。
これは一時的な活動ではなく、100年、200年先にも意義のある取り組みです。
そして、パフォーマンスを融合した「エンタメ」として続けることで、未来に受け継がれる文化へと発展させられると信じています。
②WHY
その会社、事業はなぜ重要なのか
この事業は、人と社会、そして地球の未来を「行動」と「志」で変えるために必要な、新しいムーブメントです。
一人ひとりがゴミを拾うことでヒーローになれる――そんな時代をつくりたい。その小さな行動が街を変え、社会を変え、未来を変えるきっかけになると信じています。
だからこそ「ゴミ拾い侍」は、ただの活動ではなく、人々に自分自身の可能性を示すための挑戦であり、未来をより良くするための原動力なのです。
③HOW
どのように実現するのか
SNSを通じて「かっこよく魅せ」、仕組みで人々を巻き込み、社会に広げ、文化として根づかせます。
現在、TikTokでは約80万人のフォロワーがいます。SNSは、一瞬で世界中に発信できる強力なツールです。「ゴミ拾い侍」という存在は強いインパクトがあり、一度見たら忘れられないと評されます。実際に経営者層を中心に「TikTokで見たことがある」と声をかけられることも少なくありません。
今後もSNSを活用し、より多くの人を巻き込みながら活動を広げていく。そして社会に浸透させ、世界に誇れる文化として根づかせていきたいと考えています。
Q3 志事をする上で感じている社会課題を教えて下さい
私が感じている社会課題は下記の4つです。
1,無関心の蔓延
ゴミが落ちていても「自分には関係ない」と見て見ぬふりをする人が多い。もちろん拾えない状況もありますが、気づいたときに「次に拾おう」という意識を持つことが大切だと思います。
2.善い行動が恥ずかしい空気
ゴミを拾うと「目立つ」「浮く」と思われ、行動に移しづらい雰囲気があります。
実際、多くの方がこっそり活動しているのが現状です。
一方で海外では、清掃は“かっこいい”行為として尊重され、デンマークでは清掃車やユニフォームがスタイリッシュで憧れの職業の一つになっています。ディズニーランドでも清掃スタッフは人気の職種です。日本だけが誇りを持ちにくい状況にあり、これを変えていく必要を感じています。
3.環境問題が“自分ごと”になっていない
情報はあっても日常生活の中で意識されにくく、地域や街を「自分の場所」と思えない人が増えています。
例えば、飲食店の前が汚れていれば客は入りたくないと感じます。だからこそお店は周囲を掃除しますし、企業のボランティア活動でも清掃後には参加者の表情が晴れやかになります。これは「心が清められる」体験そのものだと考えています。
4.若者が社会貢献に触れる機会の不足
今はゲームやスマートフォンに時間を費やす傾向が強く、外に出て社会と関わる機会が減っています。だからこそ、エンタメの力を使って社会貢献を「楽しい体験」に変えていきたいと思います。
Q4 上の社会課題の中で解決に向けて取り組んでいること、取り組んでいきたいことがあれば教えて下さい。また、解決に向けて良い愛dea(アイデア/愛のある発想)があれば教えてください
一つ目の課題「無関心」に対しては、TikTokでの発信や月2~3回の池袋でのゴミ拾いイベントを通じて、誰もが参加できる仕組みをつくっています。
動画が拡散されることで「パフォーマンス」から「そこにあるゴミ」へと人々の意識が移り変わり、行動を促すきっかけになっています。
今後は「ゴミ拾い侍認定証」の発行などで地域との連携を深めたいと考えています。
二つ目の課題「善い行動が恥ずかしい空気」に対しては、衣装やスタイルを工夫し、誰もが気軽に参加できる雰囲気をつくっています。
現在はTシャツやラフな服装を取り入れ、SNSを通じてゴミ拾いを“かっこいい文化”へと昇華。さらに、ファッションデザイン系の学校と連携し、スタイリッシュに参加できるスタイルづくりにも取り組んでいます。
三つ目の課題「環境問題が自分ごとになっていない」に対しては、アプリを活用して活動を可視化する仕組みを構想しています。
既存のアプリとの連携に加え、将来的には独自アプリを開発し、誰もが記録・共有できる環境を整えたいと考えています。
また、小学校でのSDGs授業と結びつけ、子どもたちが実際にゴミ拾いを体験する教育プログラムも展開中です。さらに「スポゴミ(スポーツごみ拾い)」のように競技化やイベント化を進め、地域対抗戦や大会を企画し、楽しみながら参加できる場を広げていきたいと考えています。
社会課題は重く捉えられがちですが、エンタメやクリエイティブの力を取り入れることで、楽しさやワクワクとともに多くの人を巻き込み、解決に向けた動きを文化として根付かせていきたいと考えています。
Q5 今後の展望を教えてください
私たちは、国内外に「ゴミ拾い侍」の輪を広げ、文化として定着させることを目指しています。
まずは、国内外に「支部」を拡大していきます。少し堅い言い方をすれば「フランチャイズ」に近い形で、すでに北海道や新潟で活動が始まり、海外ではマレーシア・ベトナム・インドで展開を進めています。現地の方々と連携しながら準備を進め、「ゴミ拾い侍支部」として全国・世界に広げ、コミュニティを強化していきたいと考えています。
次に、教育機関や企業との連携です。すでにスポンサーとなってくださっている企業もあり、子どもから大人まで幅広く参加できる仕組みづくりを進めています。
実際に「ゴミ拾い侍」は子どもに人気があり、アニメのキャラクターに似ていることから真似をする子どもたちも多くいます。
千葉では「ゴミ拾い侍キッズ」というグループが結成され、段ボールのゴミ箱を持ち同じ格好でゴミ拾いを実践しています。私たちも公式認定を行い、子ども用の籠をプレゼントしました。こうした体験は、子どもにとって“ヒーロー体験”となり、大きな成長のきっかけになると感じています。
さらに、デジタルツールの活用です。アプリやSNSを通じて活動を「見える化」し、ゲーム感覚で参加できる仕組みを広げています。
例えば、人気番組「逃走中」を模した「清掃中」というイベントでは、参加者がミッションをクリアするためにゴミを拾い、楽しみながら環境意識を高めています。
こうした企画と連携し、より多くの人に参加してもらえる環境を整えたいと考えています。
また、侍という文化は海外で非常に人気があります。実際にフォロワーの8割以上が海外で、日本以上に注目されているのが現状です。海外で成功事例が生まれれば、日本も必ず後からついてくるはずです。
最近では政治家の方とも協働の機会が増え、大阪府の吉村知事ともTikTokコラボ企画をしています。行政や企業と連携することで、社会貢献の新しい基準をつくっていきたいと考えています。
最後に、国際交流です。海外に支部が広がれば、現地の団体やクリエイターとのコラボレーションも容易になります。国を超えた仲間づくりを進め、日本と世界をつなぐ橋渡し役となりたい。
その先に「ゴミ拾い侍」という文化を世界的なムーブメントへと成長させたいと考えています。
Profile
- 1997年に「PINK STOCKING CLUB BAND」のベーシストとしてビクターエンターテイメントからメジャーデビュー。
プロミュージシャンを経て通信業界で勤務後、広告(ポスティング)会社の代表に就任。
広告事業以外に社会貢献とエンタメを融合した事業を手掛け、『ゴミ拾い侍』はSNS総フォロワー80万人。
環境省Re-styleサポーターとして3R推進にも貢献している。
書「清」への想い
―「 街・心・未来を清める」 ―
「清」という字には、澄んだ水のように濁りのない心と、曇りを祓う力が宿しています。
街を清め、人の心を清め、そして未来を清めていくこと。
ゴミ拾い侍が刀(トング)をさばき、街も人の心も綺麗になっていく姿を重ねながら、
その清らかな流れを一筆に託しました。
中河原社長の掲げる「ゴミ拾い侍」の志事、その輪が広がり、文化として根づき、
やがて世界を清らかにしていくことを願い、心を込めてしたためました。
書道家 早矢加